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うつ病とアルコール依存症の二重診断について知っておきたい5つのポイント


1. はじめに:うつ病とアルコール依存症について

うつ病は、長期間にわたる深い悲しみや無気力が特徴的な心の病で、日常生活が困難になることがあります。一方、アルコール依存症は、絶えずアルコールを摂取することでしかストレスを解消できなくなったり、飲まないと身体的な不調を感じるようになったりする状態を指します。

これらは、それぞれ単体でも深刻な問題を引き起こしますが、あいにく両者はしばしば共存することがあります。変わりゆく心の状態や飲酒習慣への理解を深め、適切な対策を講じるためには、これら二つの問題がどのように関連し合っているのかについて理解することが重要となります。本文では、うつ病とアルコール依存症、そしてその二重診断について詳しく解説していきます。



アルコール


2. うつ病とアルコール依存症の二重診断の概要

(1)二重診断とは何か

「二重診断」とは、精神医学的な診断と物質依存症(ここではアルコール依存症)の両方を持つ状態を指します。特に、うつ病とアルコール依存症の合併は、互いに悪化させ合う可能性があります。



二重診断 定義 同一の人物において、二つ以上の異なる種類の疾患または障害が同時に確認される状態

うつ病とアルコール依存症が同時に見られる状態

専門家への早期対応が求められ、適切な治療を行うことで、これらの問題を改善することが可能です。


(2)うつ病とアルコール依存症の二重診断の割合

うつ病とアルコール依存症の二重診断の割合について見ていきましょう。多くの研究から、アルコール依存症の患者の中には、うつ病を併発しているケースが少なくないことが明らかになっています。

具体的には、アルコール依存症の患者の約30%がうつ病を持っているとされています。以下の表に詳細を示します。

状態

割合

アルコール依存症の患者全体

100%

うつ病を併発するアルコール依存症の患者

約30%

これらの数値はあくまで目安で、個々の状況により差があります。しかし、うつ病とアルコール依存症が深い関連性を持つことは疑いようのない事実です。


(3)うつ病とアルコール依存症が合併するパターン

うつ病とアルコール依存症が合併するパターンは主に二つあります。一つ目は、うつ病を抱えていて、その症状を抑えるためにアルコールを摂取し始めるパターンです。二つ目は、アルコール依存症が原因でうつ病を発症するパターンです。

【表1】合併パターン概要

パターン

説明

1. うつ病→アルコール依存症

うつ病の症状を和らげるためにアルコールを摂取し、結果的に依存症になる

2. アルコール依存症→うつ病

アルコールの長期使用が脳の化学バランスを乱し、うつ病を引き起こす

どちらのパターンも重篤で、一方の疾患が他方の疾患を悪化させる可能性があります。そのため、適切な治療とケアが必要となります。


3. アルコールとうつ病の相互関係

(1)アルコールの影響によるうつ病の進行

アルコールがうつ病に与える影響を理解するために、まずはアルコールの脳への作用について簡単に触れておきましょう。アルコールは中枢神経に作用し、一時的に気分を高揚させたり、リラックスさせたりします。しかし、その反面、長期的な摂取により神経伝達物質のバランスを崩し、うつ病の一因となります。

次に、具体的な影響について詳しく見ていきましょう。

【表1: アルコールによるうつ病への影響】


アルコールの摂取

うつ病への影響

短期的な摂取

一時的な気分の変動

長期的な摂取

神経伝達物質のバランスの乱れ


長期的にアルコールを摂取し続けることで、神経伝達物質のバランスが乱れ、本来なら喜びや安心を感じるはずの状況でも、その感情を感じることが難しくなります。これがうつ病の一因となり、既存のうつ病が深刻化する可能性もあります。

このような理由から、アルコールを控えることは、うつ病の予防及び改善に有効な対策の一つとなります。


(2)うつ病とアルコール依存症の相互作用

うつ病とアルコール依存症は、互いに強く影響を及ぼし合います。この相互作用は、一方がもう一方を悪化させるという悪循環を生む可能性があります。

まず、うつ病の症状を和らげるためにアルコールを摂取する方向に働くことがあります。これは「自己薬用」と呼ばれ、一時的には気分を高めるかもしれませんが、長期的には依存症を引き起こす危険性があります。

また、アルコール摂取は、うつ病の症状を強化する可能性もあります。アルコールは中枢神経系を抑制する作用があるため、気分やエネルギーレベルを下げ、無気力や悲観的な考えを増加させる可能性があります。

以下の表は、この二つの疾患の相互作用の例を示しています。

うつ病からアルコール依存症へ

アルコール依存症からうつ病へ

自己薬用のための飲酒

アルコールによる気分の低下

依存症の発展

無気力や悲観的な考えの増加

これらを考えると、うつ病とアルコール依存症の治療は両方を考慮に入れたアプローチが必要です。


(3)うつ病の経過に及ぼすアルコールの影響

アルコールは一時的に気分を高揚させるかもしれませんが、実際にはうつ病の症状を悪化させる可能性があります。アルコールは中枢神経系を抑制する作用があり、頻繁に摂取すると気分の低下、無気力、睡眠障害など、うつ病の症状を引き起こします。

さらに、アルコールは薬物治療を受けているうつ病患者にも影響を及ぼします。アルコールは抗うつ薬の効果を弱める可能性があるため、うつ病の治療過程に支障をきたすかもしれません。

以下の表は、アルコールがうつ病の経過に及ぼす主な影響を示しています。


影響

説明

症状の悪化

アルコールはうつ病の症状を悪化させ、気分の低下や無気力を引き起こします。

薬物治療への影響

アルコールは抗うつ薬の効果を弱め、治療過程に支障をきたす可能性があります。

したがって、うつ病の患者はアルコール摂取を控えることが推奨されます。


4. アルコール依存症と自殺の関連性

(1)飲酒直後の自殺

うつ病とアルコール依存症、特に二重診断を持つ人々は自殺リスクが高まります。その中でも、飲酒直後の自殺リスクについて考えてみましょう。

アルコールは中枢神経を抑制し、その結果思考や判断力を鈍らせます。そのため、飲酒直後は衝動的な行動に走りやすくなると言われています。以下に自殺リスクの説明を表にまとめました。


状況

自殺リスク

飲酒直後

高い

慢性的な飲酒

中等度

飲酒直後の自殺リスクが高い理由としては、アルコールの影響で一時的にうつ病の症状が悪化すること、またアルコールが判断力を低下させ、自己抑制力が弱まるため、無謀な行動を取りやすくなると考えられます。

このように、飲酒直後の自殺リスクは非常に高く、アルコール依存症を持つうつ病患者のケアには十分な注意が必要です。


(2)慢性的な飲酒と自殺

長期間にわたるアルコール摂取は、体を含めた生活全般に深刻な影響を及ぼします。特に心の健康に対する影響が重大で、うつ病の症状を悪化させる可能性が指摘されています。表1に示すように、慢性的な飲酒は抑うつ感、無気力、絶望感といったうつ病の症状を引き起こし易く、これらが自殺企図へと繋がる可能性があります。

【表1】

慢性的な飲酒が引き起こす可能性がある心の症状

抑うつ感

無気力

絶望感


また、アルコールは判断力や思考力を鈍らせ、自身の問題を解決するための適切な手段を見失わせてしまいます。このような状況が長期化すると、自殺を唯一の解決策と誤認してしまう危険性もあります。慢性的な飲酒者は、自らの体調や心の状態を見つめ直し、必要であれば専門的な支援を受けることが重要です。


(3)アルコール使用障害と自殺

アルコール使用障害と自殺の関連性は、近年の研究でも警告されています。アルコール依存症の方は一般人口に比べて自殺リスクが高く、特にうつ病と併発した場合はそのリスクはさらに高まります。

以下に示す表1では、アルコール使用障害を持つ人々の中で自殺を試みた割合と、一般人口の中で自殺を試みた割合を対比しています。

【表1: アルコール使用障害者と一般人口の自殺試行率】


うつ病患者

非うつ病

現在依存症をもっている人の割合(%)

21%

7%

過去に依存症になったことのある人の割合(%)

40%

16%


このように、アルコール依存症者は一般人口に比べて自殺率が高い傾向にあります。これはアルコールがうつ病の症状を悪化させることが一因と考えられます。また、アルコールによる判断力の低下が自殺行為につながる可能性もあります。したがって、うつ病とアルコール依存症の早期発見・早期治療が重要となります。



自殺率


5. うつ病とアルコール依存症の対処法

(1)二重診断の場合の治療法

二重診断の治療は、一つずつの病状を見るのではなく、両方を組み合わせて管理することが重要です。特に、うつ病とアルコール依存症の場合、以下のような治療法が用いられます:

【表1:二重診断の治療法】


治療法

内容

心理療法

認知行動療法や対人関係療法などが採用され、自身の感情や行動について理解を深め、改善するための技術を学びます。

薬物療法

抗うつ薬や気分安定薬など、うつ病の症状を和らげる薬物を利用します。また、アルコール依存症に対しては、断酒を助ける薬物治療が行われることもあります。

自助グループ

AA(アルコール依存症者の互助グループ)などの自助グループに参加し、他の人々と共有することで心の支えとする方法です。


以上のように、患者の状態に合わせたマルチモーダルなアプローチが有効です。


(2)アルコール問題とうつ状態が合併した場合の対処法

アルコール問題とうつ状態が合併した場合の対処法は、主に3つあります。

1つ目は、医療機関でのプロフェッショナルな支援です。精神科や依存症専門のクリニック等で、専門的な治療やカウンセリングを受けることが有効です。

2つ目は、自己ケアと生活習慣の改善です。適度な運動やバランスの取れた食生活、十分な睡眠時間を確保することで、自身の抵抗力を上げることが重要です。

3つ目は、社会的な支援を利用することです。アルコール依存症の自助グループや地域の精神保健福祉センターなどから、情報提供や心のケアを受けることが推奨されます。

これら3つの対処法を組み合わせることで、アルコール問題とうつ状態の合併した状態からの回復が期待できます。

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